【重要なお知らせ】東山魁夷館は5月31日(水)から休館となりました。長野県信濃美術館は10月1日(日)から休館となります。 詳細はこちら

東山魁夷館について

About Higashiyama Kaii Gallery

東山魁夷館について

About the Higashiyama Kaii Gallery

東山魁夷館 外観

 東山魁夷(ひがしやま かいい)館は、長野県が日本画家・東山魁夷(1908-1999)から作品と関係図書の寄贈を受け、長野県信濃美術館に併設して建設され、 平成2年4月に開館しました。収蔵作品数は現在、960点に及びます。

 およそ2カ月に一度の割合で展示替えをし、「風景は心の鏡である」という東山芸術の世界をお楽しみいただいております。

東山魁夷館に寄せて / 東山魁夷

Museum Dedication Message from Kaii Higashiyama

東山魁夷館 展示室

東山魁夷館 展示室

 私が初めて信州へ旅したのは、今から64年前の大正15年夏のことでした。当時、東京美術学校日本画科の一年生だった私は、友人三人と木曽川沿いに天幕を背負って、10日間の徒歩旅行をし、御嶽へ登りました。横浜で生まれ神戸で少年期を過した私は、初めて接した山国の自然の厳しさに強い感動を受けると共に、そこに住む素朴な人々の心の温かさに触れることが出来たのです。

 この旅行の二日めの夕方、麻生(あそう)村に着き、山路にキャンプする場所を探しているうちに、大粒の雨が降ってきました。日はすっかり暮れて雨は益々烈しく、雷鳴が物凄くなってきました。路は滝のようになり、杉木立の下で雨宿りをしていると、バリバリと雷が頭上で容赦なく鳴り響きます。私達は仕方なく麻生へ引き返しました。

 とある農家の戸を叩いて、わけを話しますと、老婆が気持よく迎え入れてくれました。土間でよいから泊めて下さいと言ったのですが、座敷へ通してお茶など出してくれました。お婆さんは息子と二人暮しで、息子さんのほうは祭りの笛の稽古で近所に出かけているとのことでした。話をしているうちに雷鳴も遠くなって雨も止みました。この辺には名所もないが公園が出来たからと言いながら、老婆は私たちを誘って外へ出ました。すると、思いがけなく美しい月夜になっていました。公園というのは近くの水力発電所のそばに少しばかりの桜の木が植わっているだけの、ごく簡素なものですが、お婆さんはまんざらでも無さそうな様子でした。

 私もこの月明の静かな山峡の眺めは、全く都会の公園では味わえない素晴らしいものだと思いました。夜の大気は澄み切っていて、涼風が爽やかに吹き渡っていました。

 この旅はその時は気付きませんでしたが、私に大きな影響を与えたものであることが、ずっと後になりわかったのです。それ以来、山国へよく旅をするようになり、信濃路の自然を描くことが多くなりました。そして、風景画家として一筋の道を歩いてきました。

 いつの間にか私も年を重ね、子供がいませんので今の内に、自家所有の作品などの処置について、真剣に考えねばならない時期になりました。いろいろ考えました末に、私の作品を育ててくれた故郷とも言える長野県にお願いしたいと決心したのです。甚だ唐突なことのようですが、それは私の心の中で長い間に結ばれてきた信州の豊かな自然との強い絆が今日のような結果となったわけです。

 長野県では私の身勝手な願いを快くお聞き届けになり、このように立派な館を建てて戴き、誠に御礼の申し上げようも無いことと、心から感謝している次第です。

平成2年4月

東山魁夷

東山魁夷館の設計にあたって ~作品の「額縁」に~ / 谷口吉生

Message from the Museum's Architect

 東山画伯と建築家であった父(吉郎)とは親しく、そのため私も画伯の作品には興味を持ち、以前に展覧会の展示・構成のお手伝いをさせていただいたこともありました。このたび、東山画伯のご意向で美術館の設計を担当させていただき、大変光栄に思っております。美術館に展示される作品は、伝統的な日本画であると同時に、現代を代表する独創的な作風となっています。従って、この美術館の設計もいわゆる和風建築ではなく、現代の日本を表現するような建築を目標としました。

 今回の設計で考えたことは、言うなれば展示作品の額縁になるような建築にするという方針です。額縁は絵よりも目立ちすぎて鑑賞の妨げになってはいけないし、絵を守る役目もある。「簡潔な意匠と十分な機能性」ということから発想しています。建物の壁には石を使ったらという話もありましたが、あまり重厚な材料は作品の特徴である繊細さと調和しません。ですから、軽快感を出すためにアルミ材を用いました。美術館はあまり重々しいと、権威的になって人を遠ざけてしまうものです。外部は善光寺に近い公園の中にあるため、その環境とも調和しなくてはなりません。外側を低い塀で囲い中庭と池を設けましたが、これは公園の領域から美術館を、空間として分けるためです。同時に公園に遊びに来た人も自由に池越しに美術館を眺めることが出来ますし、公共的な場所であることを意識して開放的な空間になっています。中庭に面したラウンジの天井には池の水に光が反射し、波紋を描きます。美術館の建築は、内部では展示物や人が空間をつくり、外部では自然、つまり光や風や緑が四季折々の表情を与えてくれることが重要だと私は思います。

 静かな雰囲気の中で東山美術を見るために多くの皆さんに来ていただければと思っています。

平成2年4月

建築家 谷口吉生